35歳の時に左脚の足首を「蜂窩織炎(ほうかしきえん)」という病気に罹患し入院しました。その時の状況ですが、数日前から左脚足首に鈍痛を感じる様になり最初は「あれ?なんだろうな。ま、ほっときゃそのうち治るわ」程度に軽く考えておりました。しかし痛みは治るどころか日に日に増し、痛みを感じる部分の皮膚はどんどんドス黒く変色し、足首は見る見る腫れ上がり、ついにはまともに歩くことすら出来ないほどの痛みを発する様になりました。

さすがにこの時点で「こりゃ病院に行った方がええな」と判断し、しかしどの診療科を尋ねたら良いかも判りませんでしたので取り敢えず一番近い総合病院に行って受付で相談したところ「取り敢えず皮膚科に行ってください」とのことで皮膚科に行くと、当日の先生が一目見て「あ、これは蜂窩織炎です。すぐに入院してください」となりました。

病院では最初に皮膚科の外来に通されました。その時の先生が「すぐに入院しなければいけない」「すぐに車椅子に乗ってください。足首に負荷をかけてはいけない」「入院中は安静にしてください。決して自分の足で歩かないでください」「移動は車椅子で行ってください」
と驚かされたのを覚えております。

処置は足首に負担がかからぬ様に真っ先に車椅子に乗せられ、すぐに抗生物質の点滴を打たれました。その状態ですぐに病室の空きベッドへ直行し、家族に電話して「これから入院することになった。着替えとか用意してすぐに持ってきて欲しい」と電話しました。

病室のベッドで多少落ち着いた頃、入院のための手続きの書類を事務員が持ってきて署名し、家族が着替えを持って到着したので経緯を説明しました。家族はいきなりのことに驚いていましたが、何よりも自分自身が一番驚いてる状況でした。抗生物質の点滴が切れたらまた次の点滴を打たれて、一日中ベッドに寝ていなければなりませんでした。

驚いたことといえば、車椅子に乗ると全てのものに「手が届きにくくなる」ということでした。自販機にジュースを買いに行った時など、硬貨の投入口まで手が届かなかったり、欲しい商品のボタンに手が届かなかったり、出てきた商品を取るのは車椅子に座った状態だと逆に低すぎて腰を痛めるのではないかと心配になる程前屈せざるを得なかったり、と全てにおいて昨日までの健常者だった立場からは信じられない現実に直面しました。

普段、身障者の方にはお手伝いしましょう、といった啓蒙ポスターなどを目にしていても正直いって「自分には関係のない話だ」として、身障者の方々の世界をどこか他人事として解釈していた自分がいました。ところが自分がいざ車椅子のお世話になる立場になった途端、日本の社会がいかに身障者の方々に不親切な構造で出来上がっているかが、骨身に染みて理解できました。この時ほど自分を恥じ入った事はありません。また、日本の社会インフラの未熟さに「ここまで酷いものなのか」と相当驚きました。

自分は車椅子の操作など生まれてこの方一度も経験したことがないのであちこちにぶつけたり思う方向へいかなかったりと、散々でしたがそうした時、普通の入院患者さんが私の車椅子を押してエレベーターまで案内してくれました。これにはものすごく感動しました。もし自分が逆の立場だったら果たしてこう言った行為が自然にできていただろうか、と逆に反省いたしました。

怖かったことといえば、夜間に同室のおじいさんがいきなり悲鳴を上げて苦しみ出した時でした。これはマジで怖かったです。「ああ、このおじいさん、もうアカンのちゃうか」と見ているこちらが観念したほどでしたから。しかしどこでどうモニターしていたのか判りませんが、看護師数人がバタバタと大急ぎで入室してきてテキパキ処置を施してくれましたので、しばらくしてそのおじいさんの状態は比較的落ち着きを取り戻してきました。もし、あの時看護師の処置が遅かたらもしかしたらあのおじいさんは・・・、と思うと今でもゾッとします。やっぱり目の前でそう言った瞬間は見たくないですから。